オールフィクション
彼女がこちらをそんな目で見るようになったのはいつ頃からだったろうか。
僕にはもう思い出せない。思い返せばずっとであった気もする。
香水と煙草の香りが混じった匂いはどうしても好きになれず、煙草を吸いながら本を読み、度々文庫に灰を落してしまう癖が好きではなかった。
そんな事を言えば何を言われるか分かったものではないから、僕は口を噤むしかなかった。
それでも目は口ほどに物をいうものだから、彼女は度々何を見ているのと怒鳴った。
いいえ、何もと笑えば気持ち悪いと吐き捨てられた。
気持ち悪いのはお前だと言えれば何か変わっていたのだろうか。
どうしようもなく、だめな人だった。何もできない人だった。
煙草を吸い、本を読むこと以外、それ以外は何も出来ないに等しかった。
生きる価値のないゴミと言われたことも度々あった。僕はお互いさまだと思った。
ゴミの始末も出来ないお前には僕の始末さえも出来ないだろうと思ったが、それも僕は笑って誤魔化した。
彼女の考えている事が僕には分からない。
僕の考えていた事も彼女にはきっと分からなかったのだろう。
思い出せない事がいつくもある。記憶はいつしか歯抜けになってしまった。
僕は僕の事すら、分からないことがいくつもある。
それでもきっと、彼女をどうしようもなく、愛していたのだと思うのだ。
愛し方を間違えた、そういって笑ってくれたからそれでよかったのだ。
これで良かったのだ。それ後のことは、何も覚えていない。
掃除、手伝えなくてごめんなさい。
愛していたよ、