発光体

穏やかなそれ

 

はがして引っ張る音を手繰り寄せて

点滅する選択肢で立ち止まることを選んだ

ポケットの両手は千切れて

減ったソールに削げた踵 イヤホンの両耳は聞こえてない

 

双子のもげた頭になぞらえた言葉はおちる 

 

聖書が燃えてしまった 灰は食べた

言葉を食べて異物は吐いて観察する

意味などそこに発見できない

蹴り倒した塔 飛ばないから羽は溶けない

 

中を汚す色は透明 見えないものに侵されていく

縛る色は無色 ほどけたリボン 脱げたトゥシューズ

 

睡る女は死んだよう 空っぽの空洞 無の考察

完璧な器の水は溢れた

閉じた封筒の便箋は破れた

何も赦されていないよ 笑っている

 

まわる まわる あたまのなか

なぜまわる

ひとの心がわからないのがおそろしいのか

 

オールフィクション

 

彼女がこちらをそんな目で見るようになったのはいつ頃からだったろうか。

僕にはもう思い出せない。思い返せばずっとであった気もする。

 

香水と煙草の香りが混じった匂いはどうしても好きになれず、煙草を吸いながら本を読み、度々文庫に灰を落してしまう癖が好きではなかった。

そんな事を言えば何を言われるか分かったものではないから、僕は口を噤むしかなかった。

それでも目は口ほどに物をいうものだから、彼女は度々何を見ているのと怒鳴った。

いいえ、何もと笑えば気持ち悪いと吐き捨てられた。

気持ち悪いのはお前だと言えれば何か変わっていたのだろうか。

 

どうしようもなく、だめな人だった。何もできない人だった。

煙草を吸い、本を読むこと以外、それ以外は何も出来ないに等しかった。

生きる価値のないゴミと言われたことも度々あった。僕はお互いさまだと思った。

ゴミの始末も出来ないお前には僕の始末さえも出来ないだろうと思ったが、それも僕は笑って誤魔化した。

 

彼女の考えている事が僕には分からない。

僕の考えていた事も彼女にはきっと分からなかったのだろう。

思い出せない事がいつくもある。記憶はいつしか歯抜けになってしまった。

僕は僕の事すら、分からないことがいくつもある。

それでもきっと、彼女をどうしようもなく、愛していたのだと思うのだ。

 

愛し方を間違えた、そういって笑ってくれたからそれでよかったのだ。

これで良かったのだ。それ後のことは、何も覚えていない。

掃除、手伝えなくてごめんなさい。

愛していたよ、

 

 

双頭がこちらを見て笑っているの

それはもう治らないね お医者様の優しい微笑み

二本足が泣いているのが彼には見えない

 

偶像理論で何もない

歪めて狭めて妨げて何をしたいの 見る夢はどうですか

 

墓荒らしは捕まってしまった

抱いた陶器 冷たい床 同族嫌悪でしかない

溢れ出たそれ 戻っていくすべてが

 

風船のごとく浮き上がったそれ 

目を閉じて半分沈んだ部屋 オーストリアの歌が聞こえる

枠の中は揺り籠 どこにも行きたくないよ

 

 

 

海抜7mで痙攣する目の女たち

乳は煙 子守歌は雲 地獄にも福音は鳴る

 

生を知らしめるもの 切って問題は生じない

要らないもの いつだってそれに等しい

 

踏み潰した生首 広がらない色

鳶の梟は羽が折れて飛べなくなった

階段の下のモルグ 君はいなくなった

 

切り取られた場景 繋げて作り上げたそれ

紛い物が流れる四角い枠に広がらない思考

聖職者は何かを説く

 

葬列にパレード 記号につける印の群れ

薄膜の刺青 虫の脚の塊 なぞる蛍光色

 

投資家の損失 浮遊する脚に地面は遠い

車輪に挟まれても死に損なった

賽子遊び 勝ち逃げは許されない 

 

 

君は何をやりたいの?と笑っていた彼女

ばらばらにしたのはだあれ?

校舎裏でひしゃげた花をきれいだって笑った僕はきっとおかしいんだ

 

奪わないと得られないと怒っていた彼女

君には声が聞こえないの?

僕にはずっと聞こえているよずっと

 

回る洗濯機を見つめて将来の話をしたの覚えてる?

僕はもう覚えてないよ 

白いブラウスは汚れてしまったね

もうなにも僕には

 

 

 

水彩画を描いているのよと笑った彼女

夏は息ができなくなる きみがくれた呪い

本当に描きたかったのは油絵

淡く滲ませるよりも重ねたかった

 

嘘で包まれたそれら 何を与えてくれるの

空っぽをどうか満たして そこに真実がありますように

間違っていたって構わない

 

白さに耐えられない 肺を鼓膜を汚してください

みんな殺してしまおう 色を与えて世界に

この目が2つだけで良かったなんて

焼き増しされたそれ 憧れの希釈

 

貝の吐息 虚像の楼閣 母の腕でみる夢

三つ目が笑っている

キドナップカー 愛し方を間違えた 手を握りたかっただけなのに

特注品のワンピースが似合っている 君にしか着られない

死体遺棄には向かない日 

 

夕方と

 

曖昧な色は気持ち悪い 笑うみたいに染まっていく

絞める首は遠い夕方 女たちが駆けてひしゃげる将来像

洗っても落ちない指先の人工のかおり

泡と混ざって気持ちが悪い

 

階段下の空っぽの墓地

ここに入るのは一体いつ 指先で触れてみたい

 

産みおとした空白 こぼれた無色のそれ 不出来な証

どうかやさしく撫でてください

 

隙間に落ちてしまった 音は溶けて消える

なあにもなくなってしまったね